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大阪地方裁判所 昭和51年(ヨ)2469号 決定 1976年8月04日

債権者

(フロリダ州)エス・テイー・ビー

・コーポレーシヨン

右代表者

クレイグ・エー・ネイラン

右訴訟代理人

千田洋子

債務者

ナシヨナル商事株式会社

右代表者

西村恒五郎

債務者

関西製罐株式会社

右代表者

清水博

右両名訴訟代理人

玉井健一郎

右当事者間の商標権仮処分事件につき当裁判所は、債権者が金一〇〇万円の保証金を供託をなすことを条件としてつぎの通り決定する。

主文

一、債務者らは、燃料、工業用油脂、ろう、高級脂胞石油から製した品質改良剤を加えたモーター用添加油に対し、別紙目録一記載の商標を使用し、また右商標を付した別紙目録第二に示す商品を製造、販売、頒布してはならない。

二、債務者の本店およびこれに附属する工場、作業所内に存在する第二目録に示す商品および右商標を付したダンボール箱、罐に対する債務者らの占有を解いて大阪地方裁判所執行官にその保管を命ずる。

三、この場合において、執行官は債務者の申出があるときは、右商標を抹消させた上、右商品を債務者に返還しなければならない。

四、執行官は第二項の趣旨を適当な方法で公示しなければならない。

理由

一本件疎明によれば、つぎの事実が一応認められる。

(1)  債権者は、燃料、工業用油、ろう、高級脂胞酸を指定商品とする別紙第一目録に示す登録番号第一〇五七九八二号の商標(本件登録商標という)の商標権者であること

(2)  債務者N商事株式会社は債権者に無断で債務者K製罐株式会社に対し、債権者が日本国内販売店たるエス・テイ・ビー特殊化学製品元売協同組合にのみ販売する商品用として本件登録商標を付し製作した一〇オンス入り罐の外観表示のうち、罐の側部に極小さく表示された@72の文字と罐底部に製造時期を示す表示の二点を除き、その余は色彩、大きさ、表示とも債権者製造にかかるものと全く同一の外観を有する本件登録商標を、付した別紙第二目録に示す罐の製造を依頼し、債務者K製罐株式会社は右依頼により右の罐を製造のうえ債務者N商事株式会社に引き渡していること

(3)  債務者N商事株式会社は、申請外S貿易株式会社がアメリカのDトレイデイング、コーポレイシヨンから輸入している、本件登録商標を付したドラム罐入りのその指定商品に該当するオイルトリートメントをS貿易株式会社から買受けたうえ、これを前記(2)に記載の一〇オンス入りの罐に小分けして販売していること

二右の事実によると、債務者らの、本件登録商標を前記商品に付する行為ならびに右登録商標を付した右商品の販売行為はいずれも本件商標権を侵害するものというべきである。

三債務者らは、同人らが取り扱う商品は、債権者自身によつて製造され、かつ同人自身によつて適法に本件登録商標が付され、その意思に基づいて流通に付されたものであり、債務者らはこれを通常の商取引ルートを経て購入したいわゆる真正商品たるオイルトリートメントであり、本件登録商標は、日本国内においては、債権者の生産に係るものであるとする生産源を示す商標として認識され、内国の販売源を示す商標としては認識されていないのであるから、債務者らが大型容器のオイルトリートメントを小型容器に小分けする際に大型容器に付されている本件登録商標と同一のものを小型容器に付したとしても、それはその容器に収容している商品の生産源を継続して表示しているに過ぎず、なんら本件登録商標の権利を侵害するものではないと抗争する。

しかし、登録商標は権利者のみ使用権を有し、第三者はこれを使用することができないことが法により保障され、登録商標が権利者により商法に使用されてはじめて出所表示機能あるいは生産源を示すとの機能を発揮し得るのである。

たとえ、真正商品であつても、何人でも自由にこれに登録商標を付し得るとするならば、登録商標に対する信頼の基礎は失われ、登録商標の機能を発揮し得ないことは明らかである。債務者らの主張は商標法の規定を無視した主張というの外ない。

また、債務者は、本件商品は性質上一度に多量に用いられるものではないのであるから、当然流通過程のいずれかの段階において、ドラム罐から小分けして販売されることが予定されており、その際大型容器に付された本件登録商標を小型容器に付してはならないとすれば、他の商標を付して販売しなければならないことになり、商品は同一でありながら商標の同一性が失われ市場混乱の原因となるばかりであると主張する。

本件商品は買受人がこれを小分けして転売することは予想されることであるとしても、登録商標の法律上の性質上、右の事情から直ちに権利者が右商品を売却の際これを新たな容器に小分けして第三者が擅に別に作成した登録商標を付すことまで容認したとは到底解することができない。

四本件疎明によれば債権者は、債務者らの前記行為により本件登録商標に対する信頼感が害され混乱を来たしていることが推認されるので債務者の前記行為を差止める必要ありと認められるので、主文のとおり決定する。(大江健次郎)

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